ボカロPの皆さま。 一度はこう感じたことはありませんか?
- 日本語の歌詞の曲を作ったはいいものの、曲調に合う日本語ボカロがいない(でもピッタリな性質の英語ボカロは持っている)。
- ハキハキした日本語よりも、英語っぽい訛りのある歌い方が好きなのだけど、日本語ボカロではそれが巧く表現できない(取り敢えず何かしらの英語ボカロは持ってる)。
安心してください。英語ボカロは、日本語も十分に歌えます。ちょっと作業が面倒くさいけどね。
いくつかそういう曲を作ってみて、「英語ボカロ(以下、ENGloidと表記する)で日本語は全然イケるな!」と感じたので。今回はENGloidに日本語を歌わせる上での小手先の技術を書いておく。
まず第一に
以下を大前提に話を進めていきます。
- 何かしらのENGloidを保有している(V3以上の世代が望ましい)。
- フォネティックス(Phonetics)の編集ができるだけのスキルがある。
1を満たしてない方は、まず買ってください。個人的にRの音がしつこくなくて、母音がそこまで濁らないクリアな英国訛りのAVANNAがおススメです。というかZERO-G社のENGloidは本当にオススメです。
そして2が「なんのこっちゃ??」な方は、まず「VOCALOID 発音記号 英語」でggって下さい。話はそれからです。
それじゃ、本題に入っていきましょう!
まずローマ字打ちの歌詞を用意する
今回はVocaloid5 EditorとAVANNAを使っていきます。
まず、歌詞と曲がなければ始まりませんので、適当に書いていきましょう。
「焼き鳥は美味しいんだ!」っていう謎のフレーズを今回のたたき台としていきます。
これはまだ「ローマ字で歌詞を打ち込み、それ以外の手を加えていない」いわばバニラ状態です。そんな状態で再生をしてみると、以下の結果が吐き出されます。
ところどころが英語で歌われている(ローマ字の「to:ト」が英語の「to:トゥー」として発音されていたり等)
というわけで、次に必要なのは「ローマ字の音に変換すること」。つまりPhoneticsの書き換えです。
「これだけ覚えとけ!」なPhonetics+留意事項
英語の母音「R」の音が発音できない日本人であれば理解できるでしょうが。母音が「あ」「い」「う」「え」「お」の5つしかない日本語と違って、英語の母音数は多く、バラエティ豊かです。
なのでENGloidに日本語を歌わせる際には「いくつも候補がある中から、最適な母音を選び取らなければならない!」という問題が発生します。これが地味に面倒です。
が。「この組み合わせさえ使っておけば、間違いない!(ただし、お遊びで母音を変えてみるのも可」みたいなPhoneticsパターンがいくつかあります。以下に、その例を示しましょう。
(※印が付いているものは「母音分割が必須」なものです。赤字で示したものは、このphoneticsの他に代案が無さそうなものです)
あ「V」 | い「i:」 | う「u:」 | え「e」 | お「O:」 |
か「kh V」 | き「kh i:」 | く「kh u:」 | け「kh e」 | こ「kh O:」 |
が「gh V」 | ぎ「gh i:」 | ぐ「gh u:」 | げ「gh eI」 | ご「gh @U」 |
さ「s V」 | し「S i:」 | す「s U」 | せ「s eI」 | そ「s @U」 |
ざ「z {」 | じ「dZ I」 | ず「z U」 | ぜ「z e」 | ぞ「z O:」 |
た「t V」 | ち「tS i:」 | つ「t s U」 | て「th e」 | と「th O:」 |
だ「dh V」 | ぢ「dZ I」 | づ「z U」 | で「dh e」 | ど「dh O:」 |
な「n V」 | に「n i:」 | ぬ「n u:」 | ね「n e」 | の「n O:」 |
は「h V」 | ひ「h i:」 | ふ「f u:」 | へ「h e」 | ほ「h O:」 |
ぱ「ph V」 | ぴ「ph i:」 | ぷ「ph u:」 | ぺ「ph e」 | ぽ「ph O:」 |
ば「bh {」 | び「bh i:」 | ぶ「bh u:」 | べ「bh e」 | ぼ「bh @U」 |
ま「m V」 | み「m i:」 | む「m u:」 | め「m e」 | も「m O:」 |
や「j {」※ | ゆ「j u:」※ | よ「j O:」※ | ||
ら「r {」 | り「r i:」 | る「r U」※ | れ「l0 e」※ | ろ「l0 O:」※ |
わ短「w V」 | わ長「w {」 | を短「@U」 | を長「w O:」 | ん「n」 |
そして↑の表を実際にAVANNAで再生すると、こんな感じになります(Phoneticsを書き換えたのみで、それ以外は未編集の状態の音源です)。
ただ、これはあくまでも「8割方、コレで当たる」ってだけで、音程や音長によって母音の使い分けが求められる場合もあります。先述のとおり、お遊びで母音を変えてみるのもアリです。
ちなみに、他のENGloid音源で同じデータを歌わせてみると、微妙に異なったニュアンスが得られます。
アメリカ訛りの男声ENGloidでロックに強い音源:DEXに同じデータを歌わせてみると、こんな感じになります。R・Lの発音に癖がある音源なので、ら行が……ちょっと、アレですね。それ以外は割と綺麗だったりします。
ついで、同じくアメリカ訛りの女声ENGloidでRnB系に強い音源:Amyだとこんな感じに。ちょっとだけ日本語女声ボカロ:Kaoriに近い……というか、何ならそっちよりも発音が綺麗かもしれない。Kaoriは発音の癖が強すぎて、せっかくの綺麗な声質を殺してて、絶妙に使いどころがないんだよなぁ。
ちなみにAmyと対になる男声音源Chrisは「O:」の発音がちと癖強すぎるので、日本語には向きません。ヤツは無理っす。
そんな感じに日本語ボカロよりも、ENGloidってのは発音の差が音源ごとにありすぎますので……それぞれの音源の特徴を見極める必要はあります。
上記の表を基にphoneticsを書き換えていこう!
それでは「焼き鳥は美味しいんだ!」に戻っていきます。
表を参考にPhoneticsを書き換えていくと、AVANNAはこんな感じに歌いはじめます。
どえりゃあ違いですね。
ただし「焼き鳥は美味しいんだ」の「は:wa」の音が少し気になったので、修正していきます。
もともとの表記は「w V」でしたが、そこを変化球でɒの音に相当する「Q」を加え、「w Q V」にしてみましょう。
すると、歌がこんな感じになります。
ちょっと変化しましたね。
続けて、冒頭に小っちゃい「i:」のアクセントと、抜けの「h」のアクセントを加えてみます。
なんかシャレた感じになってきました?
仕上げの調整
特段、発音にこだわりが無い場合は、これぐらいでphonetics調整はキリ上げて、次のステップに移りましょう。
phoneticsが終わったのであれば、次にいじるべきはパラメータです。特にVelocity。
Velocityは初期の状態だと、たいてい64に設定されていると思います。これをガッツリ書き換えていきましょう。
といっても、深く悩む必要はありません。日本語を歌わせる場合、Velocityはだいたい「文節ごとに区切る」「右肩上がりの図を描く」を徹底すりゃどうにかなります。
こんな感じです。ちょっとだけ子音の速さに変化が生じたのが分かるでしょうか?
そんなこんな、最低限の調整はここまでです。あとはお好みで、DynamicsやPitchBend、Mouthといったパラメータを調整してみましょう!
仕上げ次第では、最終的にこんな感じにもなります。
以上、ENGloidに強引に日本語を歌わせる方法でした。