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映画「マイ・エレメント」から見る「nonbinary siblings」を言い表す日本語の言葉がないという難問について。

 ディズニー?ピクサー?の映画「マイ・エレメント」が公開されている、らしい。そして映画の中に、ノンバイナリーのキャラが出てくる、らしい。

 そして日本語字幕版において、そのキャラの表記がノンバイナリーであるにも関わらず「妹」と表記されていて(英語版では「Siblings: 同じ両親の下に産まれた兄弟姉妹の関係にある身内をひっくるめた言葉で、ちなみに自分自身もカウントに含める」と説明されているらしい)、モヤっているというノンバイナリー当事者の声がチラホラ出ている模様。そしてノンバイナリーのキャラが誤って妹と表記されていることにより、そのキャラが「ガールフレンドが居て、つまりレズビアン!」という誤解が発生しているらしい。これは良くない展開じゃないかい?

 一応「は? なんで妹って言っちゃいけないの?」と問題点が分かっていない方向けに説明をしておくと。ノンバイナリーとは「男女の両極のいずれかに分類されることを拒否する態度詳しくはこちらに記載」なので、ノンバイナリーを自認するキャラであるのなら「男女」のいずれかに割り当てるのは相応しくないというわけ。兄・弟・姉・妹、そのいずれも使うべきではないってこと。それから、ノンバイナリーは男女のいずれでもないわけですから、レズビアン=女性の同性愛者だという言葉は適していないといえる。

 でも。たしかに考えてみると、日本語に「Sibling」に相当する言葉って存在しないっすね。この点については、翻訳担当者も苦悩があったのかもしれないなと思う。

 日本語において。ある人に「Do you have siblings?」と尋ねたい場合。真っ先に浮かぶ言葉は、自分の場合だと「ご兄弟は(おられますか)?」だろうか。

 このとき「兄弟」という言葉が指しているのは、別に男の兄弟だけじゃない。姉妹がいる可能性も考慮しているし、仮に「姉が一人います」とか「上に兄が一人、下に妹が一人いるんです」という回答が得られたとしても「えっ、今は姉妹のことなんて訊いてないんだけど?!」だなんてわざわざ驚きはしないだろう。

 あと日本語には「女兄弟」という、日本語学習者が聞いたらぶったまげそうな変な言葉もある(女兄弟とはつまり、姉妹のこと)

 要するに「兄弟」という言葉は、兄も弟も姉も妹も包括している言葉だともいえる。かといって、姉のことを「兄」と呼ぶのは変だし、妹のことを「弟」というのも妙だし、逆も然りだ。あと、依然「男女のどちらでもない」存在のことをどう言うべきかという問題は解決しない。

古語辞典を引っ張り出してみた

 まず訪ねるべきは古き源流。いにしえの日本語をたどるべし。

 つーわけで。この問題について考える前に、日本語における「兄弟姉妹」という言葉のルーツを調べるところから始めようと思った。

第二版。古い。

 取っ掛かりとして思い浮かべたのが、上述の「兄弟という言葉、姉妹という概念を包括している説」。で、なんとなく「兄は単に年長者で、弟っていうのが単に年下っていう意味だったのでは……?」などと予想しながら全訳古語辞典を探してみた。

 そして、直感ってのは当たるもんっすね。ビンゴでした。

 兄と書いて「このかみ」と呼ぶ。そして意味の中には「兄弟姉妹のうち、兄または姉」とあるし、単に「年長者」という意味もあるらしい。

 弟は、そのまま「おとうと」と読む。そして妹という字も同じく「おとうと」と読むようだ。意味は「男女に関わらず年下のきょうだいのこと」と。

 ――そして、辞書を眺めて気付く。ひらがなで「きょうだい」と書いてある、この表記。

 もしかして、これが「Siblings」の和訳における妥当な解だったりしないかい?!

 

 ひらがなで書いてしまえば、男女という性別の概念は持ち込まれにくい。男かもしれないし、女かもしれないし、そうじゃないかもしれない的な解釈の余地が生まれるような気がする。

 HIRAGANA is wonderful because it's ambiguous. ゥォゥ.

 それに、新たな言葉を創ると意味の浸透にン十年と掛かったり、またはその年月のうちに言葉そのものが忘れられたりしそうだけど(ユレイニアンやらエスといった言葉が、今はまったく通じないように)。常用レベルに使われている既存の言葉をひらがなで書くだけで済むなら、多方面への配慮という面においても言い訳をいくらでも量産できるから適しているように思うし。それに実際に用いる場合にもコストがさほど伴わない。なにせひらがなで書けばいいだけだからだ。

 お~、ひらがなか。旺文社、ナイスかもしれない。

自分が考えるまでもなく、妥当と思しき答えが既にそこにあった。

 ――というわけでした。「nonbinary siblings」は、日本語においてはひらがなで「きょうだい」という表記にしてしまえばいいんじゃね?っていう暫定の答えが自分の中で見つかった。他の人がこれに追随するか否かはさておき、自分は今後この表記を使っていくかもしれない。

 が、やっぱり「姓or名で呼ぶ」が無難な選択肢な気がします。または「この子は○○です。わたしの家族。妹とか弟とか、そんな感じ。ハハッ」とお茶を濁すしかない。

 お茶を濁す。そう、我々みたいな面倒な人種はそれっぽくお茶を濁して曖昧な風にするしかないのだ。ハハハ~……はぁ。