書こうと思っていたものの、書かずに一年ぐらい寝かしてたテーマ。 それが、これである。
ちょうどこのアルバムをリリースした時期が時期であり、世界が穏やかじゃない空気の中で「明るくもない陰鬱な曲ばかりをまとめたアルバムに纏わる暗い話」をわざわざ書くのが気が引けたというか、書く気も起こらず。そんな感じで、書くことを先延ばしにしていた。
あれから一年経ち、じわじわと「どっかで解釈の模範解答を出しておかないとなー」って気になってきたので、このタイミングで書くことにします。
アルバムそのもののテーマ
タイトル曲の「薊と茨」はいつぞやの記事に書いた通り、拙作「ジェットブラック・ジグ」に関連した楽曲。で、このアルバムを全体的にはそんな感じになっている。
――というか、そうしたかった。が、歌詞のネタがそこまで浮かんでこなかった。ので、そのテーマを有しているのは「薊と茨」と「ニアリアム」の二曲ぐらいしかない。
でもそれじゃあアカンよな、と絞り出した案が「毒や棘を持つ植物」というもの。あまり良いイメージがないような植物をテーマに12曲ぐらい作れたらなぁって考えてた。だけど、無理だったよね。楽曲制作のしんどさを舐めてたわ。アイディアがいうほど浮かんでこなかったの。
最終的に4曲が完成した時点で「もう打ち切り 強制脱稿したい気分だ(諦」になっちゃって。それで、フィニッシュにした。
それにアイディアが出てこなくて地味に苦悩した「泥を建てる」という曲に至っては、辛うじて植物がモチーフだけど毒の要素も棘の要素も皆無。「テーマとは?(哲学)」って感じだけど、まあそのテキトーさ加減も自分らしさのひとつだと開き直ることにしたよ。
頑張った曲とそうでない曲の差が激しかったな、という意味では思い出深いものにはなっている。
あっ。1曲目の「Cluarán agus Dris」というやつについては「薊と茨」のインストを捏ね繰り回して歌のないバージョンを作ったということ以外に特筆すべきこともないので、話は割愛します。
「ナイトシェイド」:毒があって食べれない茄子なので、和名は「バカナス」って言うんですって。あまりにも人間都合なひどい名前だよ。
個人的にはめっちゃ気に入ってる曲。なんか、色々と、すごい遊びながら作ってた!(語彙力)
曲調そのものには激しい展開なんてものは無い。単純で反復的な構成になっている。まあ、これはいつも通り。ただ、Vocaloidをピコピコアルペジエーター風にしてみた曲はこれが初かな。今のところ、これが最初で最後。
で、なんか意味深そうな歌詞だけど。この歌詞に深い意味があるかっていったら、これは割とマジで「いや? べつになんもねぇけど」な曲でもある。特に意味がないからスラスラ書けた。
ちなみにこの歌詞はW.Bイェイツのエッセイだったか何かの和訳(詳しいことは忘れてしまったが、詩でなかったことは覚えてる。そして文体からしてそれなりに古い、少なくとも現代語訳ではなかった記憶が……だがどの本で見っけたどの記述なのかが思い出せない)を読んだときに引っ掛かったワード「物の怪どもの聲」「英雄達の足拍子」からポンポンポンッと連想して書いていったという背景がある。
原文が分からないので、ふわっとしたことしか言えないけど。「足拍子=Footsteps」だと思うんすよ。で、自分だったら「Footsteps」は「足音」と訳すと思う。それを「足拍子」とした和訳に「ほへぇ……」と何とも言い難い感想を覚えた記憶が鮮明に残っている。感嘆とも感動とも違う。なにかがハマらない感覚というんでしょうかね。ともかく「足拍子」って現代的な感覚だと出てこない言葉だよね。
それとも「Beet ウンチャラ feet」的な韻を踏んだ文章だったのかな。それだったら足拍子も納得できる。あと「足拍子」といえば能を始めとする日本の舞踏を連想するし、それにイェイツって「能」を基に戯曲を書いたりしてますし。そういう関連もあるのだろうか。んー、原文を知りたい。
そんなーこんなーで、こいつはかなり自由に作ってた曲ですね。ボーカルラインもかなり自由に遊んでて、Vocaloidの手持ちの音源ほぼすべてを動員したりなんかもしてたし。んで、このときに見出した「エフェクトをこうして、こうすれば、面白い音作りが出来るんじゃない?」っていう発見が、のちに「Nin luyók」に繋がってくるっていうあたりも、思い出深い曲かな。
あと、この曲を作ってた当時は自分自身がなにかおかしかった。「Cities: Skyline」っていう街づくりゲームにハマってたんだ。
ゲームの中で、そこそこ大きくて綺麗な街を作るんだけどさ。その傍らで空っぽの土地に大穴を掘って、街で生産される下水をその穴に溜めて、汚水の湖を造るんだよ。それで良い塩梅に汚水が溜まったタイミングで、上下水道の設備を反転させてさ。市民に汚水を飲ませて、病気を街に蔓延させるという、そういった遊びを、あの当時、繰り返してて……――(暗黒微笑)
「病院の数が足りません!」「墓地がいっぱいになっています!」という通知の山と、街中を駆け回る霊柩車と救急車の様子を見下ろす瞬間が好きだった。本当に自分、頭どうかしてるよなって思うんだけど、でも、それでもこの邪悪な遊びが楽しすぎて。病院に至るまでの道に大量の料金所を設置して、病院に行こうとする市民から大量の金をせしめたりとかさ。あ~、楽しかったァ~!!
……んんっ。まあ、そんな狂気じみたノリで書いた歌詞です。これはそういう感じの曲でした。
「泥を建てる」:つまり「泥藍を建てる」です。
「泥を建てる」と聞いて「藍のことか!」と連想できるひとは相当な染色マニアだと思います。「沖縄のアレね!」まで辿り着けたなら、すごい。
でもそんなレベルの人なんて滅多にいないと思うので、ここでは正解を書いておきます。そう、つまり上述の通りです。
歌詞の内容も、ただ「泥藍を建てる様子を書いただけ」。それ以上でも以下でもない。
ミンサー織りの職人を目指してたというオカンから「泥藍はクサイ。本当にクサイけど、本当に綺麗な色が取れる。けどクサイから二度とやりたくない」ってな話を聞いたことがあり、それを思い出して、そこからババンッと歌詞を書いたという経緯がある。
なおこの曲、初めはインスト曲になる予定でした。ハープだけポロポロンしてる曲にするつもりだったけど、何かの気の迷いを起こして「あっ、そうだ、歌も入れちゃえ!」ってなったものの。歌詞がまあ思い浮かばなくて、悩んでたね。
悩んだ末に、超絶シンプルでペラい歌詞が出来上がった。でもメロディーラインは過去曲の中でもぶっちぎりで綺麗だよね。が、ある意味では自分らしくないともいえる。
綺麗だとは思うけど気に入ってない曲である。『それ』とかと同じカテゴリかな。
「薊と茨」:過去記事を参照。
「ニアリアム」:ネリウム? いいえ、ニアリアムです。
「ニアリアム=Nerium」です。そして「Nerium=夾竹桃」です。夾竹桃、それは綺麗だけど猛毒の樹。根も幹も、枝も葉も、花も実も、樹液にさえも、その全てに毒がある。燃やしても毒を放つ、やべぇヤツです(Wikipedia先生いわく)。ただ、毒があるからこそ、めっちゃ強い樹でもある。
見た目は素朴で無難に綺麗だけど、同時に猛毒を隠し持っているからこそ強かでしぶとい。そういうイメージで書いた曲です。なのでシンプルで穏やかなオルゴール調のメロディーに合わせて、不穏な言葉が重なっていく曲に仕立てた。
そんで歌詞についてーだけど。これは「ジェットブラック・ジグ」のここらへんのエピソードが元になっている。「アーティー」の邪悪な生態が、この曲のモチーフでもあった。
エッッッッッグい本音を隠し持ちながらも「そうだね~(同調」と笑う彼の邪悪な生態を追う話が「ジェットブラック・ジグ」ですからね。その要点を掻い摘んで抽象化したら、まあ「ニアリアム」みたいな曲になるのかなと。
猛毒だな。とんでもない猛毒だ。